部分から全体へ(仏教的思想)おすすめ度
★★★★☆
三部構成からなり、第一部で時間、第二部では空間、第三部で時間と空間の関係を扱う。結論として、日本の人々は「今=ここ」に生きており、日本文化における「(時間的)今」と「(空間的)ここ」に集約される世界観を指摘している。
具体的に「過去は水に流す」「明日は明日の風が吹く」などの言い回しから、日本社会では「過去は水に流し、未来はその時の風向きに任せ、現在に生きる強い傾向」があり、「現在の出来事の意味は、過去の歴史および未来の目標との関係において定義されるのではなく、歴史や目標から独立に、それ自身として決定される」と述べる。
また、日本語の時制を表す特徴から、日本における「客観的時間よりも主観的時間を強調し、過去・現在・未来を鋭く区別するよりも、現在に過去および未来を収斂させる傾向」を示唆。さらには、戦後の歴史を引き合いに出し、「過去を忘れ、失策を思いわずらわず、現在の大勢に従って急場をしのぐ伝統文化があったと考えざるをえない」とまで言い切るのは、少し気になる。
続いて生活空間において、日本の強い集団(家やムラ共同体、会社など)帰属意識を指摘し、「外」と「内」という区別に言及しつつその境界に注目する。「閉じた境界」と「開かれた境界」について触れ、日本社会ではその関心は集団内部「ここ」に集中し、外部すなわち他所には及ぶことが少ないと分析。
さらには、日本空間の特徴として「奥」「水平面の強調」「建増し」に言及し、特に「建増し」という伝統に「部分から全体へ」と至る考え方を見ているのだが、若干説得力に欠けているようにも感じる。
結論では、主観主義、部分重視などの言葉で補足しつつ議論をさらに展開し、「全体から部分へ」ではなく「部分から全体へ」という思考過程に特徴づけられる「今=ここ」の日本文化の特徴を詳しく説明。最後には、時間的・空間的距離を超越するための工夫を作り出したものとして、禅の「悟り」が挙げられているのだが、あまりにも唐突すぎるゆえ、その真意を是非とも知りたいところ。
特に目新しい理論が述べられていたわけではないが、日本文化について「時間」と「空間」という概念から整理されており、わかりやすい内容に仕上がっている。
日本思想の位置付けおすすめ度
★★★★★
加藤『日本文学史序説』が時間軸に沿って書かれた日本文学(従来、宗教、哲学、科学、歴史に分類された内容も<文学>表現に含めている。私はこの本を最初、日本史として読んだ)の通史であるならば、これは『日本思想史序説』とも名付けてよい書物。思想史、ではないが、日本思想の特徴をトップダウン形式で述べている。内容的には絵画、建築も範疇に含めているがこれは『日本文学史序説』でもそうであったからこの二著を分ける基準にはならない。というより、この新著は『序説』と比べ、新しい見解を提出してはいない。しかし、まるで口述筆記かと思われる行文の美しさ。適度のユーモア。確信ある記述と、多くはないがピタリとはまる引用。序説が、ニッポンをくだらぬ戦争に導いた天皇制、あるいは戦争を防ぐことができなかったニッポンジンの根拠を文学にもとめ、それを外来思想に対して、日本の土着思想と呼び土着思想が外来思想によりいかなる変容を被ったかをツマビラカにせんとする意気込みに溢れていた壮年の書ならば、この書物は、前線をやや後退させ(視野を広くとり)、概念装置を整理して、個々の事例を少なくした記述を特徴とする大家熟年の書といえよう。多少ボリュームはあるが著者の日本論要約であり<早わかり・加藤周一>といえる本だ。(『序説』をマルクスの『資本論』にたとえるなら、書いた順序はマルクスと逆だが、この本は『経済学批判要綱』=グルンドリッセ、と言えるかも知れない)。
九十歳に近い著者の書き下ろし(大学講義などをまとめたもの)という。その過不足を整理補填するのはわれわれの役割である。
2度読んだら分かったおすすめ度
★★★★☆
加藤周一の文章は一度読んだだけで理解できることはまれで、私はたいてい2回読みます。この本も2回読んでよく分かりました。
他の文化に触れると、なんとなく今の日本の文化に違和感を感じる、という感覚の理由を探した本です。それを、時間と空間から考察しています。始めと終わりのある時間、循環する時間、遠い昔から終わりのない遠い未来まで続く時間、内側と外側、閉じるか開くか、ここではないところへの脱出をどうするか、そんなことを手がかりに色々なことがまとめてあります。著者の主張が正しいかどうかというのはあまり問題ではなく、この違和感の元を考えようという姿勢が良いと思います。
結論のはっきりしない日本的な終わりですが、それは悪い意味でのあいまいさではなく、一言で結論づけられないことだから、という印象を持ちました。全面的に賛成するわけではありませんが、かなり興味深く読みました。
「時間と空間」って,こういうとらえ方もあるのかおすすめ度
★★★★★
池内紀氏の書評(毎日新聞2007年6月3日)に勧められて読んだ。『著者名と書名から「難しい本」と思われるかもしれない。とんでもない。まるきり逆である。読みやすく,よくわかる。ときにはわかりすぎる気がしなしでもない。』
物理学では,ニュートンのユークリッド的な時間と空間の概念が,アインシュタインによって新たな時空間の概念に発展させられた。そういう切り口から時間と空間の概念を理解しようとしてきた僕にとって,それとはぜんぜん違う切り口で時間と空間をとらえるこの本は新鮮だった。そういう初心者にとっても読みやすい。
全体に対する部分を重視する我々の弱みを認識おすすめ度
★★★★★
茶室の土壁をイメージしたのだろうか、端正な装丁である。「雑種文化」から半世紀を経て筆者は、日本文化の秘密を、現在(いま)・現場(ここ)という「部分」に拠って立つ点にあると喝破する。「いま・ここ文化」理論は、宗教、文学、絵画、演劇、建築そして外交といった豊富な事例で補強・説明され、相対化される。それは、現代日本社会を構造的により深く理解しこれからの課題を提示することでもある。
本書では言及されていないが、「いま・ここ」文化は日本のビジネス社会の構造でもある。事業部制や製造業における現場主義やカイゼンは部分の積み上げ・足し合わせれば全体が上手くゆくという考えに基づく。携帯着メロからガス田開発まで手がける総合商社という業態も然り。そして今、グローバル化が日本企業に突きつけているのは、経営全体のデザイン如何である。平安中期遣唐使廃止以降の日本史一千百年間の半分は国を閉じていた歴史でもあった。これからの日本企業のグローバル経営は真に容易ではないと感じる。
はっきりいって、すさまじい出来です。
おすすめ度 ★★★★★
出来は非常に良いです。とにかくこれは絶対買いだ!
こつこつお金を貯めてでも買う価値のある一品だと思います!