食品偽装は「心の問題」おすすめ度
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日頃マスメディアの報道を懐疑的な目で見ている自分からしても、本書を読むと「え?本当なの?」と思わず叫びたくなるような「事実」が次々と出てくる。時にはその根拠があまり明確に示されなかったりもするので本書自体を鵜呑みにすることも避けなければならないが、日頃から大量に浴びせられているマスコミ報道に対する解毒効果はあるだろう。もっとも著者はリスク論に軸足をおいており、「食の安全はリスク論とは切り離さなければならない」とする立場の人からするとかなり抵抗を感じる文章も散見される。
しかしそれでもなお本書に一読の価値があるのは、例えばC型肝炎訴訟や不二家問題において典型的であるが、洪水のような一方向の報道によって一読者・視聴者が自律的な判断を下せるような環境に、残念ながら今の日本がおかれていないことが痛感されるからである。なぜそのような事態になってしまうのか、本書では様々な角度から「不安報道」のメカニズムを検証し、ささやかではあるが、改善の処方箋も示している。多くの人に手にとってもらいたい本だ。
鵜呑みにできないマスコミ報道!
おすすめ度 ★★★★★
最近、食品偽装の問題がメディアを賑わしている。老舗料亭や伝統あるお土産屋、鰻の産地偽装など、市民の食を直接脅かすような事例が相次いでいる。
これらのニュースを配信しているのは、新聞、雑誌、テレビなどのメディアに他ならない。我々は、その報道を見たり聞いたりしながら、事件に対する自己判断を迫られている。だが、その報道に対するメディア側の姿勢を注意深く見てみると、そこに何らかのバイアスがかかっているのではないか、という疑問が出てくる。というのも、こうした記事は、記者という一個人が書いているというのが現実だからだ。例えば、万能の神が書いているというのであれば、問題は別だが…。
「危ない」という報道は、それなりに注目を集める。商業報道という範疇に縛られるメディア側としては、その頸木から逃れられるものではないことは、誰の目にも明らかだろう。
本書は、「危険報道」の裏側を、自ら報道に携わる新聞記者の視点から真摯に見直した、メディア批判の書でもある。著者は言う。「中国産餃子事件などは最たるもので、あれは何らかの混入があった問題で、中国産だからという理由は見当たらない。むしろ、中国産の冷凍食品は日本の発注会社が細部に至るまで衛生管理を徹底しているので、ある意味、国産以上に衛生面の信頼度は高い」。むしろ、日本の各地で行われている「産直」などという名目で、農家から直接仕入れて売っている農産物などは、果たして健全な農薬検査などを経ているのだろうか、と疑問を呈す。
突き詰めると、そこには「記者魂」という、甘い蜜がある。「特だね」という、記者にとっては最大の関心事が目の前に転がっていると、すぐに飛びつくというのが、記者の本性だ。1%の危険と99%の安心を同列に並べるという危険がそこにある。1%の危険は、その危険度は少ないにもかかわらず、大きな見出しになる。99%の安全は、記事にもならない。
こうした報道のメカニズムを、少しでも改善したいという気持ちが著者の訴えである。要するに、細切れの「危険報道」を鵜呑みにしてしまうと、個人的に正確な判断が出来なくなるとともに、国の政策をも誤りかねないということを認識しなければならない。
とにかく、読んでみれば「目から鱗」は間違いない。