リアルタイムで観ていた当時は、視聴率もあまり良くなく、周りの友人でも観ていたのは数人だった。しかし内容は素晴らしく、山崎努扮する沢田竜彦のせりふのひとつひとつが非常に印象に残った。有名な「ありきたりなことを言うな!」というセリフだけではなく、「人間はその気になれば、いくらでも深く、激しく、ひろく、やさしく、世界をゆり動かす力だって持てるんだ」「人のために生きたいが、どうしても自分本位になってしまう、そう思っている奴の方が、目がさめている」などのセリフを今でも事あるごとに思いだすことが多い。
これらの名セリフを生んだ山田太一の脚本の素晴らしさは言うまでもないが、山崎努の演技(電話のコードを頭に巻きつけ頭痛発作の苦しみに耐える姿、死の恐怖に打ちひしがれて小便を漏らした時に息子が訪ねて来た時の狼狽ぶり、洟をたらしたまま静かに泣いている姿、寒い日に良子と歩くセリフのない場面)にも圧倒され、当時は沢田の言葉に感化され、自分も「ありきたり」ではない人生を送りたいなどと考えていた。しかし、すっかり「ありきたり」な日常を送るようになった現在、観てみると、当時はほとんど魅力を感じなかった河原崎長一郎扮する平凡な父親が、仕事や家庭を守るために孤立気味になっていく中盤や、一大決心をして自分を変えて沢田の家に押しかけて行く場面が印象に残り、山田太一が本当に描きたかったのはこちらではないか?とも思う。
視聴率優先の今のテレビ業界では決して製作されないであろう。たとえ製作されても、山崎努のような存在感や、河原崎長一郎のようにリアルに平凡な小市民を演じきれる役者がいるだろうか?
力に満ちた台詞、深く描かれた人間おすすめ度
★★★★★
「これは『男たちの旅路』に次ぐくらい反響がありました。視聴率はあまり良くなかったんですけど手紙などの反響ですね」(『ドラマ』2003年6月号所収、「山田太一ロングインタビュー・他にはないドラマを創る」より)
「早春スケッチブック」は、83年にフジテレビで放送された山田太一脚本の連続ドラマです。山田太一作品に特有の、まるで視聴者の横っ面を張るかのような力に満ちた台詞と、活き活きと深く描かれた登場人物の存在感が素晴らしい作品です。
毎回放送の冒頭に流されたドラマのクレジットタイトルシーンも作品全体の構成を表現する見事なものでした。
冒頭、穏やかな音楽が流れ、クレジットタイトルが表示されるバックには、閑静な住宅街、公園で遊ぶ親子、通学中の学生、幼稚園のバスを待つ園児と母親達、コートでテニスを楽しむ人々などの映像が流れます。それらの映像の中に、日本刀を持った全身刺青の男や夜の繁華街で生きる人々のモノクロ写真が、瞬間的に何度か導入表示されます。(ちなみに使用された写真は、写真家である倉田精二氏の作品『FLASHUP』のものです。この写真集はドラマの中でも、山崎努演じる写真家の作品として使われています。)
平凡な小市民として生きている家族と、小市民の世界から外れて生きてきた人間が軋轢を起こしながらぶつかり合う展開、やがて登場人物全員がそれぞれの昇華された答えを見出すクライマックスと、テレビドラマの歴史に残る傑作だと思います。
二階堂千寿さんが素晴らしい。おすすめ度
★★★★★
特典映像の対談の中で、山崎努さんが二階堂千寿さんとの思い出を語っておられます。
雑木林や畑の残る早春の住宅地を二人無言で散策するシーンや、名残り雪のちらつく中、良子が竜彦のしぐさを真似て背中を追うシーンの裏話などが紹介されています。
二人の共演シーンは、このドラマの中の緩徐楽章とでもいった感じで、暖かく切ないシーンやセリフが散りばめられています。
山崎努さんに負けてない二階堂千寿さんの存在感は、このドラマの中で独特の光を放っていると思います。
TVドラマの現状は、今が旬のタレントさんを起用して目先の数字を稼ぐというスタイルがあいかわらず続いているようですが、その中から「早春スケッチブック」のような20年以上経っても色褪せない名作が生まれることは難しいのではないでしょうか。
二階堂さんのような高い資質を持った俳優さんが活躍できる機会や場所がこれからもっと増えることを願っています。
素晴らしい出来栄え
おすすめ度 ★★★★★
今回の発売がすごく嬉しいです
。従来の伝統を引き継ぎつつ、バランスがうまくとれてます。
感動やドキドキ感を手元に置いて、私同様に何時でも手に取って思い返して頂きたいと願います。