なんというのか「あの時代は貧しかった」というのがまず第一印象。貧しさから離陸しつつあった頃に生まれたから、まあおぼろげながら当時の思い出が残っているけれど・・。洞爺丸の惨事は有名でそこから生まれた小説です。まだ赤線が合法でちょっと今のお方にはなかなかその辺が分からないかも知れません(もちろん僕も知りませんが)。これは推理小説ではないです。もっと大きく当時の社会の貧しい生活を映し出そうという意図の下に、そこにちょっとミステリアスな味付けを施されて仕立てられた小説だと思います。
傑作おすすめ度
★★★★★
いつか読もうと買ってはいたけれど、怖く手に取ることが出来ず、本棚に置きっぱなしにしていた。
触れたくない過去がこの本に詰まっていることは知っていた――敗戦の記憶。
絶対に読みたくなかったのに、手に取ってしまった。
ページを広げ即、引き込まれた。もう、読むしかない。
この本は戦争に負けた後、日本人がどんなふうに生きてきたかを伝えている。
だからわたしたちと無関係な登場人物はひとりもいないし、わたしたちと無関係な事件はひとつもない。
乾いた傷口を無理やり抉じ開けられる痛みに苦しみながら、すでに他界した作者に、よくぞこういう小説を書いてくれたと感謝の言葉を送りたくなる。
雰囲気おすすめ度
★★★★★
昭和二十二年九月二十日。
猛烈な台風により、青函連絡船「層雲丸」の転覆事故が発生。
多くの乗客が亡くなる大惨事となる。
同日、函館から120kmほど離れた町で強盗放火殺人事件が発生。
質屋の一家が皆殺しに遭う。また、台風の影響で火の勢いは強まり、
町の多くを焼き払うこととなる。
作品はこのような舞台から始まり、そしてさらなる展開を見せていく。
作品を全体を包んでいる雰囲気が素晴らしく、容易に作品に入り込む
ことができるだろう。
地味な語り口なのにぐいぐい引き込まれますおすすめ度
★★★★☆
『海の牙』と共に水上勉の社会派推理作家としての代表作であると共に、彼が推理作家から脱皮しつつあった頃の作品です。昭和29年に青函連絡船洞爺丸が沈没するという事件が起きました。そして同日に北海道の岩内町で町の三分の二近くが焼ける大火事がありました。ところが洞爺丸のニュースがあまりにも大きかった為に岩内町の火事は殆ど報道されなかったそうです。水上勉はこの出来事を借りて、洞爺丸を層雲丸、岩内町を岩幌町と改名して、実際には失火だった火事を放火に置き換え、放火犯が逃走途中で仲間割れを起こして殺し合い、死体を層雲丸の沈没でごった返す津軽海峡に投げ捨てて、沈没の被害者のように装うという犯罪を考え出しました。更に、舞台を戦後の混乱期である昭和22年に遡らせたことがミソとなっています。
同様に洞爺丸沈没を素材にした推理小説に中井英夫の『虚無への供物』がありますが、両者の作風があまりにかけ離れているので、洞爺丸沈没に興味を持って両書を手にした人は戸惑うことでしょう。ある出来事に人間がどのように想像力をかき立てられるかは正に千差万別なのですね。ところで、私の読み落としかも知れませんが、本書にはひとつ活かされずに終わる伏線があるような気がします。時子のところを尋ねてきた謎の人物は結局誰だったのでしょう?
勇気を出して買ってよかったおすすめ度
★★★★★
前々からこの作品には興味をもっていたが、上下それぞれ400ページという長編だけに、長い間購入をためらっていった。
物語は、青函連絡線転覆事故と北海道の大火災とに端を発している。この二つの事件に絡んで、二人の人間が逃避行を行う。スリルに満ちあふれ、上巻の最後まで一気に読めた。下巻の展開が楽しみだ。
わたしのように、読もうかどうしようかと二の足を踏んでいる方、是非読んでみてください
大変良く出来ています。
おすすめ度 ★★★★★
はっきりいって、すさまじい出来です
。ファンであれば購入価値は高いかと存じます。
こつこつお金を貯めてでも買う価値のある一品だと思います!