新生児誘拐事件を被害者と加害者の両側から描いた作品。犯罪を起こしてしまう心理、逃亡生活、宗教とセクシュアリティ、犯罪被害、トラウマ、報道…これでもかというほど多くのテーマが含まれています。途中まで犯人の視点に引き込まれてどんどん物語に入っていきますが、後半になって、被害者の眼から事件が語られていきます。ラストは被害者と加害者がある意味交錯(敢えて再会とは言いません)する場面で終わっていますが、最後に全てのテーマを無理に収集したような印象もあり、胸に迫る、というほどではありませんでした。ただ、後半、事件の背景が語られると、数年前実際に起こった、女性が不倫相手の自宅に放火した事件を思い出し、何とも言えない気持ちになりました。
「悪人」との対称性と、その意味するものおすすめ度
★★★★★
この物語の持つ深い情感は、普遍的な名作のものであるが、
そのモチーフは、今の時代を切り抜いている。
強く感じたのは、吉田修一の「悪人」との対称性である。
犯罪、逃亡、道連れ、希薄な人間関係、
他者との邂逅、豊かではない生活感、
そして善悪の真偽と世間、別離と再会への希望。
それらが、男女の性別を軸にして、
ロールシャッハテストのように左右に広がったようだ。
似たような時期に同じように新聞連載で、それぞれの話が別々に展開され、
またそれぞれに代表作となったのは、なんとも象徴的な気がする。
それは、文学、善悪、世相といった広い範囲に、
多くのもの、重いもの、を投げかけたと思える。
時代の産んだ双子の名作。
子供を誘拐した直後の、やわらかく、重みや体温を感じさせる描写
それを慈しみ、世話をし、抱いて逃げていく主人公のくだり。
自分もまた、だれかに愛され育てられたのだ、という感慨が沸いた。
救いを求めておすすめ度
★★★★★
読み終わった後、説明使用のない安堵感に包まれた。私は私らしくそれでいいのだという自尊感情が芽生えた。
子どもを持ち母となり、その責任と役割に時折押しつぶされそうになる、今のままで良いのだろうか、私は良い母だろうか。そんな漠然とした悩みを抱えている方にぜひ読んで頂きたい。内容そのものよりも、読後の不思議な感覚を味わっていただきたいと思う。
出来は非常に良いです。
おすすめ度 ★★★★★
届いてからずっと気に入っています
。このアレンジが秀逸の一品から感じたことは、素晴らしい才能の奥深さ、ということです。
感動やドキドキ感を手元に置いて、私同様に何時でも手に取って思い返して頂きたいと願います。